私の「あ〜びっくりした」ハプニング体験【演奏会編 ③】

私は室内楽がとても好きで、ドイツの音楽大学で共に学んだ仲間で木管五重奏(クインテット)、ピアノも加わり六重奏(ゼクステット)で長年活動をしていました。そのかけがえのない仲間たちと作った経験と思い出は私の音楽人生の宝物です。そしてハプニングも多くありました。今日お話しする事も実際には私に起きたハプニングではないのですが、その場に居合わせたことで同じようにびっくりした出来事でしたのでお話ししようと思います。

六重奏(ゼクステット)の編成でハノーファーで行われた音楽フェスティバルに参加した時のことです。その日は土曜日で、朝からメンバーたちと一緒に電車でハノーファーに向かいました。2時間弱ほどの電車の旅、そして中央駅から少し離れた街の中の教会が会場でした。教会には自分たちが着替えをするスペースが無いので近くの博物館の一室を借りて身支度をして教会に入ります。思い思いの場所で楽器を出して少し音出しをしてから簡単な合わせをして本番という流れでした。
そんな中、クラリネットの仲間が挙動不審の様子で私たちの方に歩み寄ってきます。その様子に私は、前に味わったのと同じような不安を抱きました。「どうしよう、どうしたらいいかわからない」そう切り出したクラリネット君は「マウスピースを忘れたよ。。。」と力なさげに言いました。「???!!!」「ガーン」「シーン」メンバーの言葉にならない言葉が聞こえてきました。まただ、なんでだーーー。。。パニックになっている場合じゃない、とにかく落ち着いて。。。

今から電車で戻ってもとうてい間に合う距離ではありません。メンバーの一人がすぐにハノーファーの知り合いのクラリネット奏者に電話をしますが今はハノーファーにいないとの事。現地の歌劇場の知り合いであるフルート奏者を通じてクラリネットグループに聞いてみようと電話をしてみますが仕事中でしょう、繋がりません。ちょうどその時、主催者の女性が会場に入ってきて、私たちはすぐに事情を話しました。彼女はとても冷静でした。「今日は、、、土曜日ね、まだ楽器店が開いているといいんだけど」と調べ始めます。ドイツは個人営業のお店は土曜日は昼過ぎまでで営業を終えるところが多く、日曜日は駅構内の売店などの例外を除いたらほとんどのお店は閉まっています。「一カ所開いている楽器店があるわ、車を出すから今すぐ行ってマウスピースを買いましょう、あなたはピアニストさんね?これ、お願いできるかしら?」と主催者の女性とクラリネット君は去って行きました。ピアニストの仲間は雑巾と窓拭き用の洗剤を持っています。「えっと、ピアノを磨いておいてということかな?」と我に返った彼は拭き掃除を始めます。私たちもぼう然としながら音出しを始めました。どれぐらい時間が経ったでしょうか。お客さんも続々と会場に集まり始めました。そしてやっとのことで二人は帰ってきました。今回は開始時間を遅らせることなくスタートできました。

その日のプログラムにはジャン=フランセの ” L’Heure du Berger” という六重奏曲があって、第二楽章はまるでクラリネットの独壇場のカデンツァという内容でした。普段とても温厚でゆったりとしたタイプのクラリネット君は、その時ばかりは大変に鬼気迫る勢いと言いますか、これまでに見たことのないような凄まじいオーラで見事に演奏し終えました。後で「何年寿命が縮んだかわからないよ、あの一番安いプラスチックのマウスピースで良くあれだけ吹けたもんだ」と言っていました。まことに心臓に悪い出来ごとでした。その日が日曜日でなく土曜日の昼間で楽器店がまだ開いている時間だったことが私たちのピンチを救ってくれました。あのままマウスピースが手に入らない状況だったらと考えるとなんとも恐ろしいことです。それからというもの、私はそれまで以上に楽器関係の持ち物をチェックして家を出るようになりました。皆さんもくれぐれも楽器とリード、マウスピース、楽譜など現地で用意しにくいもののチェックはお気をつけください。そしてこの話にはまだオチがあったのでした。無事に終わった演奏会、帰りの電車に間に合おうと大急ぎで駅に向かう私たち、ピアニストの仲間が気を利かせて駅構内の売店でビールを調達してきてくれました。「みんな!本当にお疲れ様!乾杯しよう、とんだハプニングの後でビールの味も一層美味しいよね」とみんな手にビールの缶を取ったのですが、何を間違えたのか、全て「ノンアルコール・ビール」だったのでした。あの時のピアニストの仲間の絶望した顔は今でも忘れられません。「素敵な」思い出のお話でした。

今日はこのへんで、ありがとうございました。Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★ (2019年12月15日)

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